あらすじ
朝食室の卓には、皿が一枚も並んでいなかった。
婚姻三年目の春。夫は乳姉妹と先に食事を済ませていた。
「家族同然なんだ」と、夫は何度でも繰り返す。
アデラインは侯爵夫人として、屋敷を支えてきた。
領地の帳簿。季節の贈答。社交の段取り。すべて彼女の手だった。
けれど三年分のどの頁にも、彼女の名前は書かれていなかった。
ある朝、宰相府から確認状が届く。
差出人は、夫ではなく彼女の名を呼んでいた。
机の向こうで立ち上がった文官は、静かに告げる。
三年前の挨拶状を、私はずっと保管しております、と。
怒っているのではありません。疲れたのです。
アデラインは静かに、夫から離れる準備を始める。
彼女が三年間整えてきた書類を、見ていた人がいた。
夫が信頼と呼んで甘えてきた仕事を、屋敷の外では誰が見ていたのか。
席を譲り続けた女が、最後に選ぶのは。