あらすじ
近未来。子どもたちは小学校入学前の就学時健診で、「失敗予防接種」を案内されるようになった。
忘れ物、負け試合、叱られる経験。
小さな失敗をあらかじめ疑似体験し、大きな挫折への耐性をつけるための制度だった。
けれど母親の沙也は、息子の陽太に傷つく思いをさせたくなかった。
忘れ物はアプリで防いだ。
宿題はチェックリストで管理した。
苦手なことは、先回りして取り除いた。
陽太は、よくできる子になった。
失敗しない子になった。
少なくとも、沙也はそう思っていた。
だがある日、生活科の調理体験で、陽太は卵を床に落としてしまう。
それは、ただの卵だった。
けれど陽太にとっては、初めて「戻せない」出来事だった。
「落としたことを、戻して」
失敗を避け続けた親子は、失敗したあと、どこへ戻ればいいのか。
これは、失敗しない子に育てたはずの息子と、失敗させないようにしてきた母親の、少しだけ痛くて、少しだけ温かい近未来SF。