あらすじ
エピローグ:夜明けの蛍
アヴァロン聖王国の国境を越えて、遠く。
追っ手の声も、血の簒奪も、冷たい鉄格子の音も聞こえない、静かな世界の果て。
小高い丘の上に立つ一本の巨木のふもとで、エレニアは夜空を見上げていた。
彼女の髪は、あの毒々しい純白から、本来の美しい黒髪へと戻りつつある。
胸の奥で蠢いていた呪いは、彼女自身の「金の瞳」の力によって解呪され、今はただの穏やかな生命の灯火として息づいていた。
「……遅いな」
ぽつりと呟いた彼女の背後から、草を踏む優しい足音が響く。
「待たせたな、エラ」
振り返ると、そこには少年が立っていた。
その右腕は、もはや異形の羽に覆われてはいない。ボロボロに削り削られた魂の回路を、エレニアの黄金の瞳がすべて「解呪」し、人間の腕へと連れ戻したのだ。
ルシアンがそっと差し出した両手の手のひら。
その隙間から、淡い、だけど温かい黄金の光が零れ落ちる。
「……あ」
エレニアの金の瞳が、パッと輝いた。
ルシアンがそっと手を広げると、数え切れないほどの小さな光の粒が、夜空へと向かって一斉に舞い上がっていく。
それは、かつて檻の底で、そして3年前の研究所で、2人が見た光、月光蛍の群れだった。
「綺麗……」
天の川のように夜空を彩る黄金の光の海。
エレニアの頬を、一筋の涙が伝い落ちる。それは悲しい涙ではなく、3年間の地獄を耐え抜き、ついに手に入れた本当の自由の証だった。
「約束通り、見せただろ」
少年は少し照れくさそうに笑い、エレニアの隣に並んで座った。
「うん。……ありがとう。私を、見つけてくれて」
エレニアは少年の、人間の温かさがある右手を、今度は逃がさないようにぎゅっと強く握りしめる。
少年もまた、その小さな手を優しく握り返した。
漆黒の夜の向こうから、ゆっくりと、世界を祝福するような黄金の朝日が昇り始める。
呪いを乗り越えた2人の旅路は、今、ここから新しく始まるのだ。