あらすじ
1986年、夏。
どこまでも続く無機質なコンクリートの迷宮、緑山ニュータウン。
扇風機のぬるい風、半分溶けかかったアイスキャンディー、そして赤いダブルラジカセ。
深夜ラジオの局と局の間に潜む「空白のノイズ」に耳を澄ませる時間。
僕たちは、このありふれた生ぬるい夏休みが、永遠に続くのだと信じていた。
「四号棟のノイズには、知らない足音が混ざる」
子供たちの間で囁かれる他愛のない都市伝説は、ある日突然、日常の境界線を静かに踏み越えてきた。
生活音が途絶えた半地下の駐輪場。
どこまでも無限に増殖していく灰色の階段と、すり鉢のように歪むコンクリートの空。
そこには「怪物」などいなかった。ただ、日常の形をした異常だけが口を開けていた。
主を失い、カラカラと回る自転車の車輪。
残されたのは、夥しい量の黒い磁気テープを吐き出して沈黙するラジカセと、取り返しのつかない喪失感だけだった。
日常のすぐ隣で息を潜める、狂った空間と「見えないもの」の恐怖。
そして、ノイズの向こう側に消えた友人を追う、少年たちの長く果てしない夏の記録。