あらすじ

招待状の宛名から、私の名前が消えていた。 四度目になる。 いつものことだ、と紅茶を一口だけ飲んだ。 侯爵令嬢ローズマリーは、公爵令息フィリップの婚約者だった。 婚約から三年。 社交界の席順から名前が抜けていく日々が、いつのまにか日常になっていた。 ある春の朝、王宮からの招待状にも、私の名前はなかった。 代わりに書かれていたのは、義妹の名だった。 私はその朝、欠席の返書をはじめて自分の名で書いた。 それは、私の意思で出すはじめての公的な書面だった。 そして、それを受け取る方は、私の知らないところで、私の名前を書き戻していた。 王宮儀礼長補佐サン=クレール伯爵閣下。 銀の徽章をつけた、お顔をすぐには思い出せない方。 怒鳴ったわけではない。 泣いたわけでもない。 ただ、私はもう、自分の名前を呼ばない場所には、足を運ばないと決めた。 招待状の宛名は、家の意思の表れ。 席順は、家の格の表れ。 そして使用人の口は、家そのもの。 私の三年は、いったい誰の目に映っていたのか。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
小説を読もう
小説を読もう2026/05/20
  • 現在の作品王宮の招待状に、私の名前は書かれていませんでした