あらすじ

においで病気の場所がわかる、総合診療医の田所誠、三十一歳。 能力があるから活躍できる、ではなく、能力があるから逃げられない。 街を歩いていても、友人といても、患者と話していても、においは漂ってくる。マスクで薄めても完全には防げない。鼻に人生を握られている三十一歳というのは我ながら情けないが、鼻は田所の言うことを聞かないので諦めるしかない。 総合診療科の外来には、毎日いろんな患者が訪れる。お腹の痛みを訴える夫婦、月経痛をこらえて我慢してきた若い女性、人格が変わったと家族に連れてこられた男性。においが強く立つ患者もいれば、においが何もしない患者もいる。田所はその一つ一つを、丁寧に問診して、医学的な所見と照らし合わせていく。 当てるたびに評判が広がる。周囲の期待は強まり、辞めたいと思いながら辞められなくなる。逃げ場が狭くなる。 やめよう、その方向の思考は。 そんな田所の隣で、無駄のない動きで外来を回す看護師の岩田さん。何かを確かめるような視線が、田所には少し落ち着かない。 病院の新棟への移転が、半年後に迫っている。辞めるか、ついていくか。田所は答えを出せないまま、今日も白衣を着てしまう。 鼻に握られた人生を抱えたまま、自分にツッコみながら、それでも今日もここにいる。弱気で気弱な総合診療医の、ちょっと怖くて笑える日常。 医療現場のリアルな描写と、コミカルな独白が同居するライト文芸。

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カクヨム
カクヨム2026/05/19
  • 現在の作品僕の人生は鼻に握られている