あらすじ
地下鉄の雑踏を抜けたはずだった。
気がつけばそこは、石畳と紫煙に満ちた、見知らぬ街だった。
耳の長い女。犬の頭を被ったウェイトレス。酒場で騒ぐ髭面の男達。
まるでファンタジー作品のような光景を前にしても、男は状況を理解せぬまま飲み込んでいく。
考えるより先に欲しくなったのは、煙草と炭酸ジュース。
落ち着ける暗がりと、あたたかく柔らかな居場所だった。
異世界に迷い込んだにしては妙に場慣れしたその男は、酒場で恵みを受けながら、愛想よく頭を下げ、ついでのように盗みを働く。
これは、英雄譚でも冒険譚でもない、
現代をぬるりと渡り歩いてきた一人の男が、
知らない街の路地裏へ流れ着く話。