あらすじ
婚約破棄を、合法的・平和的に解決する仕事——それが私、ノア・フィールディングの生業だ。
浮気調査に証拠集め、示談交渉まで何でもこなす、平民出身の"婚約破棄代行人"。
口は達者、頭も回る。ただし体力はゼロ。そして金には、とことん細かい。
そんなある日、事務所に黒髪の青年が現れた。
無表情。無口。そして妙に金払いがいい。
名前はルーク。依頼内容は「婚約を破棄したい」——ここまでは普通だった。
「理由は?」
「……彼女を、巻き込みたくない」
(重い案件だこれ)
調査を進めると、婚約相手の公爵令嬢エリシアは評判完璧、非の打ち所なし。なのにルークは異常なまでに怯えている。さらに不審な噂が耳に入り始めた。魔物の急増、黒い炎の目撃情報、辺境村の消失——。
そして私は、偶然見てしまった。
ルークの腕に刻まれた、黒い紋章を。
それは古文書にある伝説の刻印——『魔王刻印』。
未来で世界を滅ぼす存在に現れる、呪われた証だった。
討伐対象? いいえ、違う。
彼は必死に、自分の暴走を抑えていた。
好きな人を守るために、自ら別れを選ぼうとしていた。
「……あなた、まだ人間ですね」
「なお特級危険案件なので、追加料金になりますが」
「分かった」
「即答なんだ……」
さらに判明した真実は衝撃的だった。
王国上層部は未来視の情報でルークの魔王化を知っており、秘密裏に抹殺しようとしていた。
そして未来で彼が暴走した本当の原因は——"孤独"。
婚約を破棄され、全員に見捨てられた末の完全暴走。
つまり今この瞬間、ルークは自ら同じ道を歩もうとしている。
婚約破棄どころか、国家追跡対象になってしまった婚約破棄代行人の私。
戦闘力はゼロ。武器は、言葉と契約書と少しの口だけ。
「婚約破棄代行人なので、不当破棄は嫌いなんです」
体力ゼロの平民が、口八丁と書類一枚で王国を動かす——これは婚約破棄の話のはずだったのに、気づけば世界の命運まで背負わされた、ちょっとおかしな仕事録である。