あらすじ
### 憐れみの神エピメニスの涙
天上の神々が黄金の蜜酒に酔い痴れる夜、
オリュンポスの隅で、ひっそりと涙を流す神がいた。
その名はエピメニス、人の「報われぬ祈り」を司る神。
彼は夜風に乗り、地上へと静かに舞い降りる。
夜の帳が下りた世界は、ひんやりと湿って、
人間の切ない吐息と、かすかな血の匂いに満ちていた。
「全能のゼウスよ、どうか私の病し子を」
「美しきアプロディテよ、あの人の心をこちらに」
人々の必死な声が、エピメニスの耳を震わせる。
冷たい雨の雫が、祈る人々の頬を濡らし、
暗闇の中で、彼らの絶望が胸を締め付ける。
神々は、これほどまでに重い痛みを無視しているのか。
彼の胸の奥は、張り裂けんばかりに熱く痛んだ。
「届かぬ祈りよ、私にその重みを預けるがいい」
エピメニスは呟き、地上のすべての涙を両手で掬い上げた。
その瞬間、彼の背中に純白の翼が広がる。
だが、人々の悲しみを吸い込んだその翼は、
たちまち墨のような黒へと染まり、重く垂れ下がった。
天へ還ることは、もう二度と叶わない。
それでも彼は笑み、人々の冷え切った手をそっと握る。
その温もりだけが、暗闇を優しく照らしていた。