あらすじ
「勇者の故郷を、見たい」――たったそれだけの願いのために、大魔導士ツェルカスカは三百年を費やした。
三百年前、異世界を救った勇者コバヤシ・ユウスケは、故郷――日本へ帰れないまま死んだ。彼の最期を看取った大魔導士ツェルカスカは、勇者の遺した「いつか、お前にも俺の故郷を見せたかった」という言葉だけを胸に、三百年かけて魂転移魔術を完成させ、現代日本へ辿り着く。
しかし、目覚めた体は自分のものではなく、大学生モデルで重度オタクの川口佐江のものだった。
スマホ、自動ドア、コンビニ、電車、SNS、同人文化。
ツェルカスカにとって、勇者が恋しがった日本は、魔術よりも不可解な驚きに満ちた異世界だった。
そんな中、彼女はひとりの小学生と出会う。
ランドセルを背負い、靴紐をほどけさせたまま笑う少年。
その名は、小林祐介。
彼はまだ勇者ではない。
宿題を嫌がり、友達とカードゲームに夢中になり、母の味噌汁を当たり前のように飲んでいる、どこにでもいる普通の子供だった。
しかし、現代日本の龍脈を狙う魔神王の残党が、動き出す。
ツェルカスカは、佐江と共に、まだ何者でもない少年を守るため、戦うことになる。
これは、亡き勇者の故郷を見に来た大魔導士が、現代日本の日常に触れ、笑い、戸惑い、傷つきながら、まだ何者でもない少年の名前を守ろうとする物語。
帰れなかった勇者にも、帰りたい故郷はあった。
その故郷で、彼女はもう一度、勇者と出会う。