あらすじ

静かな帳簿に、 今日も赤い数字が滲んでいる。 剣を振るう者は英雄と呼ばれ、 血を流す者は称えられる。 だが、 誰も数えなかった。 帰らなかった新人の数を。 補償金の消えた遺族を。 削られた鉄の重さを。 誰かの懐へ消えた命の値段を。 迷宮都市オウラム。 そこは夢を喰う街。 富は上へ、 死は下へ。 笑う貴族の指先で、 今日も帳簿の数字が書き換わる。 ――そのはずだった。 黒衣の男が来るまでは。 死んだ魚のような目。 疲れ切った背中。 剣も持たず、 魔法も使えず、 ただ一冊の帳簿を抱えた男。 カイル・クロムウェル。 彼は怒鳴らない。 裁きを叫ばない。 正義を語らない。 ただ静かに、 算盤を弾く。 ひとつ。 ふたつ。 みっつ。 積み上がる不正。 繋がる因果。 暴かれる嘘。 そして男は告げる。 > 「差額が合いませんね」 その瞬間、 積み上げた権力は崩れ始める。 凍る魔力。 止まる資金。 砕ける虚栄。 誰より冷たく、 誰より公平に。 感情ではなく、 計算で世界を裁く。 夜。 裏路地の小さな食堂。 湯気の立つ魔汁煮込み。 黒パン。 少し酸っぱい酢漬け。 銅貨三枚。 それでも温かい食事。 それを前にした時だけ、 男は少しだけ人間に戻る。 この街は腐っている。 だが、 腐敗にも終わりは来る。 なぜなら。 嘘はいつか、 数字に負けるからだ。

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小説を読もう2026/05/18
  • 現在の作品『迷宮都市の監査官 ――その横領、差し押さえます――』