あらすじ
侯爵令嬢リディアは、王太子レオンハルトの婚約者として王宮に出入りしながら、実は誰にも評価されぬまま王家の薬花園を支えてきた。彼女の持つ「春告げの加護」は、傷んだ土を癒やし、希少な薬花を咲かせる地味な力。王都で使われる高級薬や香油は、その収穫に大きく頼っている。
けれど大舞踏会の夜、レオンハルトは華やかな光魔法を使う伯爵令嬢セシリアを伴い、「土まみれの女は未来の王妃にふさわしくない」と婚約破棄を宣言。静かに一礼したリディアは、婚約解消に伴い、自らの持参金と管理権で成り立っていた王家の薬花園、希少種の種子、栽培権を引き上げると告げて王宮を去る。
彼女に手を差し伸べたのは、隣国で“冬の公爵”と恐れられるアドリアン。凍てつく領地を救ってほしいと請われ、初めて人として尊重されたリディアは、彼の不器用な優しさに少しずつ心をほどいていく。
一方、薬花園を失った王都では薬不足と財政難が始まり、レオンハルトは自分が捨てたものの大きさを思い知る。春の交易祭で再会したとき、リディアの隣にいたのは、もう彼女を手放すつもりのない公爵だった。いまさら謝られても、もう遅い。春は、彼女が選んだ場所にしか咲かないのだから。