あらすじ

【キャッチコピー】 神様もご存じなかった。世界とは、仕込んで、待って、味を整えるものだと。 ――そして、捨てられた0.3%のなかにこそ、神は宿る。 【あらすじ】 入社三年目の中味開発者・倉科凛子(くらしな りんこ)は、毎朝同じ自販機の前で同じ缶コーヒーを買い、同じ社員証で同じ門をくぐる。彼女が二年がかりで仕込んだ機能性飲料の試作番号「KX-073」は、PSI部長・沼田に「歩留まり零点三、つまり屑だ」と切り捨てられた。鞄の底に隠した最後の試作サンプル一本。それを抱えたまま、社内試飲会で配られた競合他社の新製品をひと口飲んだ瞬間――凛子は意識を失い、井戸の底に落ちていた。 そこは、神々が世界に注ぐ「神気」が枯渇しはじめた異世界。神酒(しんしゅ)と呼ばれる聖なる飲み物が腐り、大地が乾き、人々が静かに死につつある世界だった。神殿の老いた酒造り師マハ翁と、巫女セレナに連れられて王都へ向かう道中、凛子は気づく。この世界が病んでいる原因は、神気の「歩留まり」が極端に下がっていることだと。 そして王宮で凛子を待っていたのは、自分の上司・沼田と寸分違わぬ顔をした男――「効率の神」を祀る神官長ヌマト卿だった。 凛子は仕込み桶の煮沸消毒から始めて、世界の発酵環境を地道に作り変えていく。だがヌマト卿は世界の「無駄」を切り捨てる教義で、神気の歩留まりをさらに下げて凛子の工房を焼き払う。完全なる喪失のどん底で、凛子は鞄の底から一冊のメモを見つける。それは元の世界で書いた、誰にも見せなかった研究記録――「歩留まり零点三こそ、本物の味が乗っている」と書いた日の自分の字だった。 凛子は神々を醸す。神を発酵させる。そして世界の歩留まりを反転させる。 クライマックスの後、彼女は神酒の最後の一杯を仲間たちに残して元の世界へ戻り、月曜日の朝八時十二分、見慣れた自販機の前で、缶コーヒーを買わずに歩き出す。

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小説を読もう2026/05/18
  • 現在の作品飲料開発職、異世界を醸して帰る