あらすじ

十年分の帳簿を、彼は一度も開かなかった。 騎士団の補給、外交、装備管理。 レティシアはその全てを一人で回してきた。 九百二十名分の物資を手配し、隊員一人ひとりの事情を帳簿に記す日々。 誰にも気づかれない仕事を、十年。 ある日、婚約者は別の令嬢を傍に置いて告げる。 「君は隣にいるだけでいい」。 その一言が、十年の全てを否定した。 レティシアは静かに婚約を解消し、王都を去る。 手元には紹介状が一通だけ。 北方辺境の公爵から届いた、たった二文の手書き。 「補給台帳を拝読した。お会いしたい」。 読まれなかった帳簿を、読んだ人間がいた。 寡黙な辺境公爵は、甘い言葉ではなく仕事の中身を問う。 数字の裏にある判断を、初めて誰かに問われる。 けれど王都からは手紙が届く。 崩れ始めた騎士団から、戻ってきてほしいと。 謝罪のない手紙を前に、レティシアの手が止まる。 この物語の愛は、報告書の余白に宿る。 レティシアのインクが何を綴るのかは、まだ誰も知らない。

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小説を読もう2026/06/09
  • 現在の作品私の十年を「誰にでもできた」と仰るのなら、どうぞご自由に