あらすじ
誰が、傘をタイムマシンだと思うだろう。
僕は雨に紛れ、傘に隠れて時間を移動するんだ。
……あの人に会いに行くために。
《あらすじ》
世界終末時計が残り40秒を表示する26世紀。
時間遡行開発事業団に所属するクレイオ物理学研究所に勤める那由他(ナユタ)は、『雨男』と呼ばれるタイムトラベラーの一人である。
タイムトラベラーには様々な仕事があるが、歴史を改変することは決してない。
何故なら、使命を果たすため歴史改変に着手したタイムトラベラーの姿があちこちで消えても、世界の過去もその後も依然として何も変わらないことに気づいたからである。
つまり、過去に手を加えたとしてもパラレルワールド《並行世界》のひとつが新しく派生するだけであり、さらに言うなれば界を跨いでいることになってしまうタイムトラベラーがどの世界からも切り離されてしまうからだ。
その為タイムトラベラーの役割は、過去の調査や歴史的検証、絶滅種や枯渇した資源の未来への移送が、主なものとされている。
その中で那由他(ナユタ)のしていることは、時間軸を跨ぐ書籍類専門の買物代行者だ。
依頼に基づき、対象の品を入手する為に時間遡行をしている。それは研究に必要な莫大な費用を賄うためのスポンサーとなる富裕層が、快く資金を投入する方法として編み出された錬金術だった。
那由他(ナユタ)が、21世紀へ初めて時間遡行に選んだ2017年に、彼がこの先タイムトラベラーとしての禁忌を犯すことになる一人の男との出会いがあった。小説家、摺木(するき) 綴(つづり)である。
雨の中に佇んでいた綴(つづり)に不意に感情を揺さぶられた那由他(ナユタ)は、その不思議な感情を深く探るべく綴(つづり)のことを知ろうと彼の書いた本を22世紀で手に取った。
那由他(ナユタ)は、綴(つづり)が生涯に書いた、たった二冊の本の世界に夢中になる。
綴(つづり)のことが気になるのは、彼の生み出す物語のためか、それとも他に理由があるのか、それを見極めようと何度も足を運ぶうちに、彼の書いた本が二冊しか存在しない理由に気づく。
2025年の東京大震災で、綴(つづり)はその短い生涯を終えていたのである。
綴(つづり)の書いた本をもっと読みたい。
綴(つづり)のことがもっと知りたい。
本当はただ、綴(つづり)に生きていて欲しい。
那由他(ナユタ)はタイムトラベラーとしての禁忌に手を染め、綴(つづり)の命を救う。