あらすじ

魔王軍との戦争が続く異世界には、傷を瞬時に塞ぐ回復魔法が存在していた。

裂けた皮膚は閉じる。
折れた骨はつながる。
流れた血は止まる。
治癒術師たちはそれを「救済」と呼んでいた。

けれど、救われたはずの人々は、元の生活には戻れていなかった。

剣を握れなくなった兵士。
眠れなくなった子ども。
食事を拒む片腕の騎士。
傷は塞がったのに、立ち上がる意味を失った者たち。

現代日本で作業療法士として働いていた黒瀬灯真は、患者を助けようとして命を落とし、異世界で勇者として目を覚ます。

だが、彼が最初に手にしたのは、魔王を討つための剣ではなかった。
倒れた兵士の呼吸を見て、出血を押さえ、震える手に触れることだった。

「傷が塞がっただけじゃ、人は救われない」

勇者として剣を取り、作業療法士として人の暮らしに手を添える灯真。
彼には、人々の中に残る“失われた生活の断片”を見る力があった。

一方、魔王の呪い《灯喰い》は、人から生きる意志、役割、誇り、明日を望む小さな灯を奪っていく。

神官組織に属する若き治癒術師リュミナは、灯真の行動に戸惑う。
片腕を失った元騎士イリスは、生き残った自分に価値を見いだせず、差し出されたスープさえ拒み続ける。

魔王を倒せば、本当に世界は救われるのか。
命を助けることと、その人がもう一度生きていくことは同じなのか。

これは、回復魔法では治せないものに向き合う勇者の物語。
壊れた世界で、人がもう一度「自分の人生」を取り戻すための、暗く、静かで、あたたかなダークファンタジー。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
アルファポリス
アルファポリス2026/06/08
  • 現在の作品回復魔法では治せないもの