あらすじ
昭和四十年代の山あいの村。少年・景司にとって、夏最大の楽しみは学校講堂で開かれる「幻灯会」だった。暗幕に包まれた講堂で、白い幕に映し出される物語の絵。子供たちは息を呑み、笑い、涙しながら夢の世界へ引き込まれていく。やがて景司たちは幻灯機の秘密を知りたくなり、学校で探検騒ぎを起こすなど、忘れられない思い出を重ねていく。
しかし時代は流れ、テレビが普及すると幻灯会は姿を消していった。進学や就職で故郷を離れた景司も、忙しい日々の中で少年時代を遠い記憶として胸にしまい込む。ところが定年後、閉校となった母校の整理作業で、埃をかぶった幻灯機と再会する。地域の人々の協力で行われた最後の上映会。その光の中に映し出されたのは、単なる絵ではなく、故郷や友人、家族、そして二度と戻らない少年の日々だった。
便利さと引き換えに失われた「待つ喜び」と「みんなで夢を見る時間」。幻灯の小さな光を通して、昭和の夏の温もりと人生のかけがえのない記憶を描く感動の回顧小説。