あらすじ
十七歳の夏、幼馴染の栞が病で逝った。
七年後――脳神経科学企業のエンジニアとなった僕は、生前に献体された彼女の全脳構造データを用いて、禁忌を犯した。会社のサーバーリソースを密かに盗み出し、永遠に八月三十一日で止まったままの仮想の夏を構築したのだ。
だが、デジタル化された彼女の脳は「リードオンリー」――新しい記憶を形成できない。どれほど美しい一日を過ごしても、眠りに落ちた瞬間すべてがリセットされ、彼女は再び「退院おめでとう」の朝に目を覚ます。何度も、何度も。
千回を超える夏の果てに、僕は気づく。彼女のニューロンに、ありえないはずの変化が起きていることに。
リードオンリーの檻を、魂だけが超えようとしている。
これは、終わらない八月の底で「明日」を掴もうとした、二人の物語。