あらすじ
空は、いつから灰色だったんだろう──?
十二歳の泣き虫少女・瑠香は、大好きだったおばあちゃんを亡くしたばかり。
遺品の中から見つけたのは、淡く青い光を放つ一本のクレヨンだった。
空中に線を引くと、その色は宙に残る。
描いた絵は光になり、炎にも盾にもなる。
──ただし、使うたびにクレヨンは短くなり、二度と元には戻らない。
灰色の雲に覆われたこの世界では、色が静かに失われていた。
花の赤が消え、空の青が消え、人々の感情までもが薄れていく。
怒れない。泣けない。笑えない。
誰もそれを「おかしい」とすら思わない。
色を奪っているのは、大妖怪──色剝ぎ。
かつて誰にも理解されなかった一人の画家が、絶望の果てに堕ちた姿。
「色があるから人は傷つく。灰色の世界こそが、救いだ」
その歪んだ慈悲が、世界を灰色の沈黙で塗り潰そうとしていた。
裏山で出会ったのは、怪我をした一羽のカラス。
──いや、正体は同い年の鴉天狗の少年・クロウ。
高慢で口が悪くて、おにぎりを盗み食いするくせに絶対認めない。
でも、その漆黒の翼だけが、瑠香を空へ連れていける。
鴉天狗の背に乗り、泣き虫はクレヨンを握る。
怒りを喰らう紅蜘蛛、悲しみを喰らう藍鯨、喜びを喰らう金糸雀──
色を司る妖怪たちとの空中戦が始まる。
描くたびに減っていくクレヨン。
薄れていく自分自身の色。
それでも少女は描くことをやめない。
「泣いていい。泣いた分だけ、空は青くなるから」
おばあちゃんが遺してくれた、たった一本の青。
使い切ったその先に待つものは、喪失か、それとも──
これは、最後の一塗りで世界の空を塗り替える、涙と色彩の物語。