あらすじ

父を心臓病で亡くして一年。都会でリモートワークをしながら孤独に暮らす大崎優は、ある夏の朝、家族三人で撮った古い写真に触れ、故郷へ帰ることを決意する。 有休を取り、夜行バスに乗り込んだ優。乗客たちが途中の停留所で一人、また一人と降りていき、ついに車内には自分一人だけになったと思っていたが、最後部の座席に、真夏の夜には不釣り合いな麦わら帽子をかぶった一人の女性がまだ座っていた。 長野県平湯近くのバス停に降り立ち、夜道を歩き出す優。しかし二十分ほど歩いたところで、胸を押さえて倒れてしまう。 ――このとき、優は死んだ。 だが本人はそれを知らない。 気がつくと、あの麦わら帽子の女性が傍らにいた。白崎ゆり。幼い頃、喘息の療養で毎年夏にこの土地を訪れていた少女。病院で出会い、毎年一緒に遊んだ、優にとっての忘れられない幼なじみだった。 十年ぶりの再会。ゆりと共に故郷の夏を歩く優は、田んぼ道の風、夕日の色、蛍の光の中で、少しずつ笑顔を取り戻していく。 しかし、何かがおかしい。 村の人々は優に気づかない。母の家を訪ねても、母は優の声に振り向かない。物に触れようとしても、指がすり抜ける。ゆりだけが、優と当たり前のように話し、笑い、隣を歩いている。 やがて優は、自分がもうこの世にいないことを悟り始める。 そしてゆりが告げる。あの夜、道で倒れたこと。もう戻れないこと。ゆりが優の病気を知っていたこと。病院で偶然再会し、医師との会話を聞いてしまったこと。優を追って同じバスに乗ったこと。 ゆりには優が見えていた。想いの強さが、生と死の境界を越えていた。 真実を受け入れた優は、父の眠る墓を訪れ、ゆりと最後の時間を過ごす。 夕日に染まる道で、二人は別れる。 優は、自分の意志で歩き出す。

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小説を読もう2026/06/08
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