あらすじ
「あんたの定食は10分かかった。うちの店なら、その時間で10人は楽勝でまわせるね」
職人歴二十年の板前・源治(げんじ)が営む小さな定食屋『げんじ』の真隣に、全品500円・注文から30秒で料理を出すハイテクファストフード店『メガ・スピード・キッチン』がオープンした。
自称『味覚の達人』の太った店長・早出(はやいで)は、「食べてる時間が少ないほどいい。すぐ自分の時間に戻れることこそが現代の最新栄養学だ」と歪んだタイパ至上主義を掲げ、源治の丁寧な出汁や仕込みを「自己満足さ」と鼻で笑う。
1200円の焼き魚定食と、500円のジャンクフード。
表通りの勝負は一瞬だった。
客足は途絶え、残ったのは常連の爺さんと学生3人のみ。彼らの優しい慰めが、逆に源治の職人としての悔しさを激しく燃え上がらせる。
それでも――源治は出汁の一滴すら妥協せず、包丁を握り続けた。
そんなある日、隣の店に1人の迷惑系配信者が突撃したことで、早出が盲信していた「爆速システム」のあまりにも極端な裏側が全世界に生配信で大炎上!
「30秒で人を満たす店」は、「30秒」で一瞬にして崩壊することになり――。
これは、時代遅れと言われた一人の職人が意地を貫き通す物語。
そして、過激なファスト消費社会に毒され、自分の作ったジャンクで自滅した男が、一杯の「本物の味噌汁」に出会って正気に戻るまでの、10分間の奇跡の記録。