あらすじ
2026年4月。千葉県の県道沿いにある中堅スーパー。
俺はここで、惣菜コーナーの古い油の匂いにまみれながら勤続11年目の春を迎えた。
昭和51年生まれの50歳。
就職氷河期の底を這いずり回り、職を転々とした末に流れ着いた吹き溜まり。
年収は420万円。
年に一度の昇給は2000円。
この10年で俺の価値はたった2万円しか上がらなかった。
テレビをつければ「日経平均過去最高」「初任給の大幅引き上げ」と女子アナが作り物の人形のように笑う。
その裏で俺たちの手取りは、ステルス増税と終わらない物価高に削り取られていく。
社会は俺たちを透明人間として扱い、都合のいい安い労働力として消費し尽くしてきた。
ある夜。
半額のアジフライをかじりながら、吐き気を催すような虚無感とともにSNSの捨てアカウントに書き殴った。
『俺たちは使い捨ての財布かよ!もう限界だよ!富士山、さっさと噴火してこの国を全部灰に埋めてくれ』
ただのヤケクソだった。
誰に宛てたわけでもない、底辺の男の呪詛。
翌朝、その投稿は15万リポストを超えていた。
共鳴したのは、同じく社会の底を這う者たちだけではない。
過労で摩耗する大学病院の医師、予算を削られた研究者、インフラを支える官僚。
国の中枢で静かに絶望を溜め込んでいた高学歴の氷河期世代たちが、俺の言葉を大義名分として神輿に担ぎ上げた。
「教祖様、フェーズ1の指示を」
「Fの解体シミュレーションは完了しています」
顔の見えないエリートたちの異様な熱狂。
1000万人のルサンチマンが俺という空っぽの器に注ぎ込まれ一つの巨大な意志を持って動き出す。
俺には止める権利も止める力もない。
ただ、日常の裏側で日本が少しずつ崩壊していく音をアジフライの油臭い息を吐きながら聞いている。
誰も正しくない。
誰も救われない。
これは透明にされた世代が最後に起こす静かで致死的な反乱の記録。
リアルに願う。