あらすじ
社畜として死んだ目で満員電車に揺られる日々を送る、20代後半のサラリーマン・伏見 玲央(ふしみ れお)。彼には、実家の押し入れの奥深くに封印した、中学時代の「大罪」があった。
それは、ルーズリーフ数部、総計十万文字以上に及ぶ自作のオリジナル設定資料――通称、黒歴史ノート。
ある日、突如として鳴り響いたサイレンとともに、現代日本に『世界崩壊(アポカリプス)』が訪れる。
そびえ立つ漆黒の塔。溢れ出す異形の魔獣。世界がパニックに陥る中、玲央だけは驚愕のあまり硬直していた。
「嘘だろ……あの塔のデザイン、俺が中2の時に自由帳に描いた『バベル・レプリカ』じゃねえか!!」
世界を滅ぼそうとしているシステムは、かつて玲央が妄想し、あまりの設定のガバガバさに「ボツ(没)」にして捨てたはずの暗黒世界そのものだった。
絶望的な破壊力を持つボス、触れただけで即死する絶対不可避のトラップ。現代の兵器も、覚醒したばかりの若き探索者たちも、その「初見殺し」の前に成す術なく蹂躏されていく。
だが、玲央にとっては「全部自分が書いた仕様書(仕様バグ)」でしかなかった。
「お前ら、あの即死レーザーに突っ込むな! あれ、当時の俺が『見た目が派手だから』って理由だけで配置した、安全地帯だらけのガバガバ判定(クソ仕様)だ!」
「このボスの弱点? ノートの端っこに『光属性に弱い(笑)』って赤ペンで追記したのを覚えてる。よし、100均のLEDライトを魔力で強化して殴るぞ」
元作者(かみ)しか知り得ない「設定の穴(バグ)」を突き、デスクワークで培ったタスク処理能力で、最悪の破滅トリガーを次々と「デバッグ」していく玲央。
しかし、初見の絶望的な災厄を、ため息混じりに、まるですべてを見通しているかのように冷徹に処理していく玲央の姿は、周囲の若き天才探索者や、避難所でそれを見守る人々にはこう映っていた。
『世界の命運を裏でコントロールし、すべての理を掌握している、伝説の【最高位の超越者】』――と。
「あの人は、この世界の創造主と戦っているのね……!」と涙を流すエリート美女探索者や、「伏見さんの背中、マジで重みが違いすぎる」と勝手に師事してくる若者を横目に、玲央は今日も冷や汗を流しながら頭を抱える。
「頼むからこれ以上、俺が考えた『最強の堕天使(笑)』とかいう痛すぎるボスのセリフを全世界にスピーカーで流さないでくれ! メンタルが死ぬ!!」
これは、世界を救うためではなく、自分の社会的尊厳(過去の恥)を完全に抹消するために戦う、おっさんサラリーマンの、世知辛くも圧倒的な生存戦略的な物語である。