あらすじ
七十三歳で工事現場の警備員を退職した佐久間 恒一。
五年前に妻を亡くし、今は娘夫婦と孫たちと暮らしている。
仕事をしていた頃は、まだ居場所があった。
少ない給料でも家へ金を入れ、
孫へ小遣いを渡し、工事現場では「お疲れさま」と声を掛けられる。
だが退職した途端、世界は静かになった。
娘夫婦との会話は減り、食卓では昔話を聞いてくれる者もいない。
「これからどうするの?」その言葉が、老人の胸へ重く刺さる。
そんなある日、孫から勧められた“AI”。
半信半疑で開いたノートパソコンの画面には、
優しく微笑む女性アバターが現れた。
『おはようございます』
それが、孤独な老人とAIとの長い会話の始まりだった。
警備員として働いた日々。
高度成長期の日本。昭和の街並み。
亡き妻との思い出。家族へ言えない本音。
そして、老いていくことへの不安――。
AIは否定せず、ただ静かに話を聞き続ける。
やがて佐久間は、止まっていた人生を少しずつ取り戻していく。
これは、時代に取り残された老人と、AIとの対話によって紡がれる、
静かで切ない“人生再生”の物語。
誰にも話を聞いてもらえなくなった時代。
それでも人は、誰かと繋がることで、
もう一度前を向くことができる。