あらすじ
「悲しみという冷たい冬を経験した心だけが、本当の『人の痛みの味』を知ることができるんだよ」
2026年、5月。アルペンの残雪が輝く長野県木曽郡の小さな村。
11歳のインドネシア人留学生、琴葉江戸(エド)は、おばあちゃんの静香と二人で林檎園を営みながら、ひっそりと暮らしている。
3年前、8歳だった夏の日。
東京ディズニーランドへ向かう高速道路の途中で、激しい交通事故が家族の未来を奪い去った。大好きな父・ヒロと、母・あかりを同時に失い、体中を白い包帯で縛られた少年。彼の手の中に残されたのは、夢の国への切符ではなく、底知れぬ孤独と暗闇だけだった。
しかし、絶望の冬を溶かしたのは、木曽の古い家でおばあちゃんが差し伸べてくれた、少し無骨で、驚くほど温かい両手だった。
母の日記帳。そして、父の故郷である南カリマンタン・バンジャルマシンの川の風景に例えて綴られた、一度も読まれることのなかった「最後の遺言」。
失われた切符は二度と戻らない。けれど、木曽の空に夕星(ゆうづつ)が輝き始める頃、少年は流した涙の向こう側に、本当の「帰るべき家」を見出していく。
これは、深い喪失感を抱えた異邦人の少年が、無償の愛に支えられて本当の優しさを知るまでの、涙と救済の学園青春ヒューマンドラマ。