あらすじ
【兵器】草刈り機エンジン搭載、布製の翼、自転車のサドル、車輪なし。
【輸送】風船爆弾の気嚢にぶら下がって、ジェット気流で太平洋を渡る。
【任務】アメリカ本土上空で気嚢を切り離し、機体で滑空、爆撃せよ。
【帰投方法】記載なし。
——これが、史実の影で実用化されながら誰の歴史にも残らなかった、日本軍「鎗快攻撃隊」の全てである。
昭和十九年、秋。東京帝大の元学生・千綿薫は、関西弁の隊長・二門と、秋田から来た無口なマタギ・知里川と共に、千葉の松林で太平洋越え爆撃の訓練を始める。
蒟蒻糊で和紙を貼り合わせた風船爆弾の気嚢。下にぶら下げるのは、布と竹でできた超軽量機「鎗快」。ジェット気流に乗れば、ロサンゼルスに届く——という、ほぼ片道切符の計算式で設計されていた。
しかし運命は、彼らをロサンゼルスではなく、メキシコの荒野に運ぶ。
爆撃に失敗した男たちは、生き延びるために、テキーラ密輸業者となった。
戦争が終わっても、彼らは帰らなかった。
帰る場所が、無かったからである。
笑って、走って、飛んで、流されて、密輸して——
誰の歴史にも残らなかった三人の、片道切符の物語。