あらすじ

薔薇は咲いていた。 けれど、その花を誰が手配したのかを知る者はいなかった。 夜会は開かれていた。 けれど、その招待状を誰が確認し、誰に頭を下げ、誰に礼を尽くしたのかを知る者はいなかった。 帳簿は並んでいた。 けれど、その数字が一つずつ積み上げられ、無駄を削り、誰かの暮らしを守っていたことを知る者はいなかった。 それはいつも「当然」だった。 花が届くのも。 予算が足りるのも。 商人が笑顔で協力するのも。 騎士たちが不満なく働くのも。 すべてが当たり前。 あまりにも当たり前だったから、誰も感謝しなかった。 誰も見なかった。 誰も覚えなかった。 そして、ある日。 その「当然」は静かに消えた。 花は届かず。 帳簿は乱れ。 人は離れ。 信頼は崩れ落ちる。 誰かが壊したわけではない。 誰かが奪ったわけでもない。 ただ一人の少女が、自分の仕事をやめただけだった。 見えない歯車。 名もなき支え。 陰で差し出され続けた優しさ。 それらは失われて初めて価値を知る。 けれど。 失った後で気づいても遅い。 枯れた花は戻らない。 離れた信頼も戻らない。 だから少女は振り返らない。 もう謝罪もいらない。 感謝もいらない。 ただ、自分の力を正しく使う場所へ歩いていくだけ。 誰かの都合のためではなく。 誰かに搾取されるためでもなく。 自分の仕事として。 自分の誇りとして。 誰も見ていなくても咲く花のように。 誰も褒めなくても流れる川のように。 彼女は今日も数字を整え、人を繋ぎ、未来を支える。 そして世界はようやく知る。 最も価値あるものは、いつだって目には見えないのだと。

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小説を読もう2026/06/07
  • 現在の作品私の「当然」を止めました ~無能な公爵令嬢と婚約破棄した王太子殿下、すべての予算と人脈が私一人で回っていたことに気づいてももう遅いです~