あらすじ

伯爵令嬢クラウディアは、王国一の銀山ローテンベルクで坑道の「空気」を統べる唯一の検坑令嬢だった。 坑内の風の向き、灯の炎の色、坑木の軋み、籠の鳥のさえずり――そのすべてを読んで、どの坑道を掘らせ、どの坑道を閉じ、いつ人を退かせるかを決める。その差配が、十年、ひとりの坑夫も殺さずに王国一の銀を掘らせてきた。 だが彼女には、誰にも明かせぬ一つの秘密があった。山の最奥に眠る、王国で最も豊かな銀の大鉱脈――それを彼女は「掘れぬ貧鉱」と偽り、断じて掘らせなかった。なぜならその鉱脈こそ、山全体の重みと風を支える、ただ一本の柱だったからだ。 婚約者の王太子は、彼女が金を土に眠らせる「臆病な役立たず」だと断じ、公衆の面前で婚約を破棄し、検坑令嬢の職を解いた。後任は、ある鉱山商会に買われた監坑官。彼は「空坑」を埋め、貧鉱と偽られた最奥の柱に、ついに鶴嘴を入れた。 追放されたクラウディアを唯一信じたのは、十年文を交わしてきた山岳国の坑道技師ラインハルト。二人は互いの検坑記録を読み合い、敬意から想いを育ててきた仲だった。 三月後、王都を富ませてきた銀山が、呼吸を止めて崩れる。最も豊かな鉱脈を掘った瞬間に。失われた一人の「空気を読む目」が国を支えていたと、誰もが手遅れになってから知る。そして王国は、世界一の銀を抱えたまま、二度とそれを掘れなくなった。

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小説を読もう2026/06/07
  • 現在の作品「掘らぬ鉱脈に金を眠らせる役立たずめ」と追放された鉱山令嬢——その鉱脈が、山を支える最後の柱だった