あらすじ
母は言った。
「好きにしなさい」
その言葉は自由のようでいて、
いつしか見えない鎖になった。
右へ行こうとすると、
母のため息が聞こえた。
左へ進もうとすると、
母の寂しそうな背中が見えた。
だから私は、
自分で選んだつもりで、
母が悲しまない道ばかり歩いてきた。
気づけば人生の地図には、
私の足跡よりも、
母の影が濃く刻まれていた。
檻はなかった。
鍵もなかった。
誰も私を閉じ込めてはいなかった。
それなのに私は、
長いあいだ出ることができなかった。
母を愛していたのか。
母を恐れていたのか。
その違いさえ分からないまま、
季節だけが過ぎていく。
けれどある日、
震える手で扉に触れた。
外の風は冷たかった。
失敗もあるだろう。
後悔もあるだろう。
それでも。
誰かの正解ではなく、
自分の間違いを選べる人生を、
私は生きてみたい。
振り返れば、
そこにはまだ母の影がある。
消えることはないのかもしれない。
それでも私は歩き出す。
影を背負ったまま。
愛と罪悪感の境界を越えて。
母の檻ではなく、
私の人生へ。