あらすじ
東京・大手町の朝、サラリーマンの男はビルの反射光を浴びた瞬間、幼い頃の記憶へと意識が引き戻される。「そこは広島県福山市、瀬戸町。まだ世界が今よりずっとシンプルで…」──波多野弥生の少女時代へと遡る。
厳格な農家の父と、穏やかで不揃いなよもぎ餅を作る母のもと、三姉妹は瀬戸内の自然に囲まれて育つ。快活で聡明な次女・弥生は、日々の農作業や学校生活の中で「感情を無駄遣いせず、現実的に世界を渡る」独自の処世術を身につけていく。
やがて弥生は瀬戸内信用金庫に就職し、持ち前の観察力と論理力で瀬戸内信金のエースとして軽やかに過ごす。しかしその平穏は、ある夕方の一本の電話で破られる。鞆の浦で保護された妹・綾子が、なぜか弥生の名だけを繰り返していたのだ。
弥生が迎えに向かった鞆の浦では、夕陽に染まる仙酔島や常夜灯が静かに佇み、二人が迷路のような古い路地へ踏み入れた瞬間、瀬戸内の風景の奥に潜む“家族の秘密”と“過去からの微かな呼び声”が、静かに物語を動かし始める。
小豆島や大三島といった瀬戸内海に浮かぶ島々を舞台にした瀬戸内ミステリーが幕を開け、瀬戸内信金のエース弥生が爽快にそのミステリーに挑んで行く。