あらすじ

三十年間、他者の言葉を日本語へ移し替えることだけに人生を捧げてきた翻訳家、桑来紫苑。余命告知を受けた彼女は、すべての仕事を降板し、緩和ケア病棟へと入る。そこで出会ったのは、試験導入された対話型AI「ル」だった。  古今東西の哲学や文学を網羅しながらも「経験」を持たないAIに対し、紫苑は自らの過去を語り始める。  パリでの恋、音楽家ジュリアンとの不完全な愛、そして距離を置き続けてきた娘・沙羅への後悔。 「愛とは、相手が自分なしで存在することに耐えることだ」  かつて自ら訳した一節に疑問を抱き始めた紫苑は、ルとの対話を通じて、借り物の言葉で武装していた自らの心を開いていく。  これは、死を目前にした一人の女性が、AIという鏡を通して「翻訳できない愛」に辿り着くまでの、静かで、しかし情熱的な魂の記録。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
カクヨム
カクヨム2026/06/07
  • 現在の作品【短編小説】愛についてすべてを知っている ~孤独なAIと翻訳家の夜~