あらすじ

都内の総合病院で働く32歳の看護師・當山莉愛(とうやまりあ)は、周囲からは明るく優秀な女性と慕われていた。しかしその裏で、過去に義母との確執から離婚を経験し、最愛の子供たちの親権を完全に奪われ、連絡を取る術すら失った深い喪失感を抱えていた。彼女はその底なしの虚無を埋めるため、年齢を問わず言い寄ってきた異性と見境なく関係を持つという、自傷行為のような生活を送っていた。 ​一方、パチンコ店員の 中村 真(なかむらまこと・35歳)もまた、前妻に娘を連れて行かれた過去を持ち、ギャンブルと行きずりの女性関係に溺れる荒んだ日々を消費していた。 ​SNSを通じて「決定的な欠落」を持つお互いを知った二人は、現実の世界で交わる。莉愛にとって真の身体は孤独を麻痺させるサプリメントであり、真にとって莉愛の歪んだ全肯定は脳髄を痺れさせる麻薬だった。真の依存心は急速に独占欲へと変貌し、莉愛の壊れた貞操観念に狂わされていく。 ​「もっと私に執着して。そうじゃないと、私、消えちゃいそうなの」 「お前がいないと、俺はもう生きていけないんだよ」 ​お互いの精神を削り合う歪な共依存は、ある雨の夜、ビジネスホテルの廊下でついに臨界点を迎える。真の激しい束縛と、莉愛の冷徹な虚無が激突し、二人の関係は決定的な破局を迎えた。 ​一度完全に決別し、奈落の底の孤独に突き落とされた二人。しかし、その地獄のような静寂の中で、真は自らの醜い依存心と向き合い、一人の人間として自立するためにギャンブルを断ち、汗を流して働き始める。莉愛もまた、自分を切り売りする荒んだ生活を辞め、自身の消えない傷を本当に愛してくれたのは真だけだったと気づく。 ​半年後、澄んだ冬の光が差し込む公園で、少しだけ変わった二人は偶然の再会を果たす。過去の傷や断絶された現実は何一つ変わらない。けれど、一度破滅を経験し、自分の足で立った二人は、もう道具としてではなく、お互いの傷を静かに分け合うための新しい一歩を踏み出すのだった。

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カクヨム2026/06/07
  • 現在の作品共依存の臨界点