あらすじ
貧しい農村で育った景司は、幼い頃から金のない苦しさを知っていた。空腹や古着は我慢できても、家族が惨めな思いをする姿だけは耐えられない。そんな思いから景司は「金こそが人を守る」と信じ、故郷を離れて都会へ働きに出る。
懸命に働き、昇進し、安定を手に入れながらも、病に倒れる父、年老いる母、そして故郷で待つ恋人・春香との間で揺れ動く景司。やがて彼は出世よりも家族との時間を選び、故郷へ戻る決断をする。
結婚し、娘が生まれ、父となり、そして父を見送る。さらに娘を送り出し、祖父となった景司は、人生のさまざまな別れと出会いを経験していく。
若き日の景司は線香の灰だけを見ていた。現実と生活を支える金だけが大切だと思っていた。しかし人生の終わりに近づくにつれ、人を支えているのは家族への愛情や感謝、受け継がれる想いという「煙」のような目に見えないものだと知る。
煙は天へ昇り、灰は地に落ちる。その両方を抱えて生きた男・景司の、静かで温かな一代記である。