あらすじ
京都の古道具屋「水無月堂」を継いだ水無月杏子。
博物館員として道具の来歴を調べてきた彼女が、父の死から二年後、理由もわからないまま店に戻ると、奥の暗がりに河童がいた。
河童の名は六兵衛。
頭の皿に水を湛え、道具に触れると、その記憶の断片を読むことができる。
先代との約束でこの店に棲みついているという。
志野の茶碗、届かなかった手紙、投げつけられた手鏡、抜かれなかった刀の鍔。
客が持ち込む道具ひとつひとつに、語られなかった時間が眠っている。
六兵衛がその断片を語り、杏子がそれを補完するとき、誰かの人生の欠片が、静かに姿を現す。
感情を言語化することで感情から逃げてきた杏子と、怒りと悲しみの区別もつかない河童。
二人は道具を媒介に、少しずつ互いを、そして自分自身を読み解いていく。
約束とは縛ることではなく、居場所を作ることだ。
そしてどこにいるかは、理由がなくても選べるのだ。