あらすじ
帳簿の上に並ぶ数字は、
誰かを愛したりはしない。
泣き声にほだされることもなく、
美しい言葉に酔うこともない。
ただ静かに、
借りたものは借りたものだと告げる。
あの日、私は婚約を失った。
王宮の大広間で、
冷たい視線と嘲笑の中、
「完璧すぎる」と断罪された。
可愛げがない。
冷徹だ。
守銭奴だ。
そう言われた。
けれど私は知っていた。
国を支えていたのは、
拍手でも、喝采でも、
甘い恋の言葉でもない。
積み重ねられた数字だった。
一枚の契約書。
一冊の帳簿。
一行の署名。
誰も見向きもしないそれらが、
王国を支える骨組みだった。
だから私は手を放した。
もう支えない。
もう埋め合わせない。
もう見なかったことにはしない。
すると城は揺れ始めた。
王冠は重さを失い、
玉座は音を立てて傾いていく。
私は何もしていない。
ただ契約通りにしただけだ。
数字は嘘をつかない。
努力した者の時間も。
眠れなかった夜も。
誰にも知られず流した汗も。
数字は覚えている。
そして同じように、
怠慢も。
浪費も。
傲慢も。
裏切りも。
数字は忘れない。
だから復讐ではない。
これは精算だ。
憎しみではない。
ただの決算報告。
貸したものを返してもらうだけ。
その結果、誰かが破滅したとしても、
それは私の冷酷さではない。
自ら書いた赤字の行が、
最後に自分へ返ってきただけ。
雨上がりの窓辺で、
私は新しい契約書を開く。
未来はいつだって、
過去より大きな数字でできている。
だから前を向こう。
愛も。
人生も。
誠実さも。
最後には必ず帳尻が合う。
――数字は嘘をつきません。
そして願わくば、
人の心もまた、
そうでありますように。