あらすじ
もう朝なんて来なくていい。
そう思った月島紬《つきしま・つむぎ》が目を覚ましたのは、生と死のあわいにある不思議な駅だった。
薄明かりのホームに立っていたのは、人間の姿をした少年。
けれど紬は、彼が誰なのか、すぐにわかった。
差し出した手に触れる前、必ず一度だけ手の甲をこつんと押してくる癖。
歩くとき、いつも左側に回り込む癖。そして、日なたで眠った毛布みたいな匂い。
死んだはずの愛犬、リクだった。
「迎えに来たんじゃないよ。追い返しに来たの」
そう言ってリクが差し出したのは、過去へ戻るための切符だった。
行き先は、紬が置き去りにしてきた朝ばかり。
言えなかった言葉。
伸ばせなかった手。
守れなかった約束。
そして、最後まで見送れなかった、小さな背中。
リクに叱られ、手を引かれながら、紬はほどけてしまった日々を少しずつ歩き直していく。
陸《リク》へ。
もう一度、この世界に足をつけるために。
これは、死ぬためではなく、生きるために。
亡き愛犬と歩く、朝待ちの物語。