あらすじ

1936年、晩年の精神医学者ヴァルモンのもとに、日本の村谷玄道博士から奇怪な症例記録が届く。患者は東北の農村出身の青年だ。秋分の頃になると赤い花を恐れ、彼岸花を見ただけで震え、死んだ少女の声を聞くという。記録は、異常な冷夏に襲われた少年時代の回想から始まる。稲は実らず、村は飢え、子供たちは大人たちの不安と狂気を感じ取っていた。少年は近所の少女と心を寄せ合うが、二人は夜の神社で、村人たちが凶作の対策を話し合ううちに「口減らし」という言葉を口にするのを聞いてしまう。 やがて食卓には、毒抜きされたという彼岸花の根が並ぶ。少年は異様な声に拒まれ、口にすることを免れるが、翌日、少女は彼岸花の根を食べて死ぬ。村は彼女の死を悼みながらも、まもなく訪れた帝国大学の学者、軍人、官吏たちによる農事試験と食糧支援に救われていく。少年は、少女の死が村の救済の代価にされたのではないかという疑念を抱く。 彼岸花に問いかける少年の前に、帝大の学者が現れる。学者は彼岸花の「声」を知り、妖と科学は根を同じくするものだと語る。少年は少女の声に導かれるように学者の助手となり、彼岸花、人間、暗示、科学、国家の境界へ踏み込んでいく。 記録を読むヴァルモンは、これを単なる幻覚症例とも迷信とも断じられない。さらに、依頼主である村谷博士にも―――彼岸花は、本当に人を操るのか。それとも人間の恐怖と制度こそが、怪異を咲かせているのか。

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カクヨム
カクヨム2026/06/06
  • 現在の作品彼岸花における奇怪な症例