あらすじ

毎晩、五十三の灯りに魔力を注いで回る。 七年間、一日も欠かさなかった。 誰にも頼まれていない仕事だ。 公爵夫人エルザの手は油で黒ずんでいる。 結界、保冷庫、温水装置。 屋敷の魔道具はすべて彼女の設計だった。 夫は仕様書を商談に使い、妻の名は消した。 来客の前では手を隠せと命じた。 二年かけた試作品は、たかが道具と捨てられた。 その夜、エルザは巡回をやめた。 設計図帳だけを持ち、屋敷を出る。 灯りが一つ消え、二つ消える。 湯が出ない。食材が腐る。 結界に隙間ができる。 公爵は初めて妻の不在に気づく。 ただし、気づいたのは妻ではなく機能の欠落だ。 東の辺境でエルザは新しい設計を始める。 しかし、よそ者を歓迎しない職人がいた。 油染みの手は、まだ試されている。 たかが道具と呼ばれたものが何だったのか。 灯りの消えた屋敷は、まだ答えを知らない。

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小説を読もう2026/06/06
  • 現在の作品魔道具師だった公爵夫人