あらすじ
毎晩、五十三の灯りに魔力を注いで回る。
七年間、一日も欠かさなかった。
誰にも頼まれていない仕事だ。
公爵夫人エルザの手は油で黒ずんでいる。
結界、保冷庫、温水装置。
屋敷の魔道具はすべて彼女の設計だった。
夫は仕様書を商談に使い、妻の名は消した。
来客の前では手を隠せと命じた。
二年かけた試作品は、たかが道具と捨てられた。
その夜、エルザは巡回をやめた。
設計図帳だけを持ち、屋敷を出る。
灯りが一つ消え、二つ消える。
湯が出ない。食材が腐る。
結界に隙間ができる。
公爵は初めて妻の不在に気づく。
ただし、気づいたのは妻ではなく機能の欠落だ。
東の辺境でエルザは新しい設計を始める。
しかし、よそ者を歓迎しない職人がいた。
油染みの手は、まだ試されている。
たかが道具と呼ばれたものが何だったのか。
灯りの消えた屋敷は、まだ答えを知らない。