あらすじ
とある冬の夜、駅前の歩道橋。
街は少しずつクリスマスの装いへと変わり始めており、広場には色とりどりのイルミネーションが設えられていた。トナカイやツリー、ソリを模した青や金の光が絶え間なく瞬き、通り過ぎる人々の頬やコートを淡く照らしている。その光景は、足早に駅へ向かう者たちの表情までわずかに和らげ、足取りをどこかゆるやかにしているようだった。
時折、学生やカップル、子供の笑い声が響き、ビルに反響して澄んだ空へと溶けていく。人々の賑わいが冬の夜気を際立たせていた。
その歩道橋の手すりにもたれ、じっと下の広場を見つめている女がいた。両手をコートのポケットに入れたまま、動かない。白い息だけが規則的に夜に混ざっていた。その顔に笑みはなく、瞳はただ景色をぼんやりと反射しているだけのようだった。
と、そこへ笑顔で駆け寄る男が一人――。
「よっ、お待たせ」
男は少し息を切らしながら、いつもの調子で軽く手を挙げた。声は弾み、浮き足立っているのが見て取れた。