あらすじ
商家出身の公爵夫人エレナは、結婚から二年、夫レオンに妻として向き合われず、公爵家で発言権を持たずにいた。家令ヴィクトルは彼女を軽んじ、先代公爵夫人セレスティアは領地運営の記録へ触れることを許さない。そんな晩餐の席で、エレナは銀盆の下に隠された施療院からの急報を見つける。三日後、病児と保護児が眠る小児区画の暖房が止められようとしていた。さらに冷えと空腹に耐えていた下働きの少年ノアが倒れ、エレナは母から持たされた私財用の登録印章で、一晩分の薪と保温石を手配する。だが翌朝、施療院や厨房へ届くはずの薪が、西倉庫で止められていたと判明する。市場金庫の空白、二重の受領印、封蝋箱、蒸気記録、施療院の記録。薪商、書記、技術者、使用人たちの小さな証言をつなぐほど、子どもたちの暖を奪った仕組みは、公爵家の物流と財務の奥へ広がっていく。怒鳴るのではなく、泣きつくのでもなく、エレナは証拠を一つずつ積み上げる。証言者を守り、現場を動かす彼女の姿に、冷たい夫レオンも少しずつ目を向け始める。小さな暖房停止の調査は、やがて公爵夫人としての発言権、領地全体を立て直す改革、不器用な夫婦再構築、そして王都へ続く陰謀の入口へ変わっていく。