あらすじ

お集まりの諸君、よくぞ集まってくれた。  吾輩は今、猛烈に感動している。こうして多くの同志達がこの場に集ってくれた事にだ。    さて諸君、賢明なる諸君は、明日が何の日かよく知っていると思う。  そうでなければ、ある者は学校が、ある者は仕事があるにも関わらず、こうして秘密結社の集会に顔を出すこともあるまい?  諸君の組織への忠誠と献身に、吾輩からも敬意を捧げよう。    うむ、そこの君。手を挙げるのが一番早かったな? さぁ答えたまえ。明日は何の日だ? 「土曜日ですか」  違う。  君にはがっかりだ。心底がっかりだ。そこで正座していたまえ。  では次だ、そこの後ろから2番目の列の――そう、君。そう、メガネを掛けたロングヘアーの君。 「水戸ホーリーホック対Vファーレン長崎の大事な一戦です! Ksデンキスタジアムまで遠征に行きます! ゴーゴーVファーレン!」  君はそこで気が済むまでブラジル体操でもしていろ。  全く……我が組織のメンバーも質が落ちたものだ。  いいか諸君、私が若い頃はだな? 10年前の2016年6月6日などは大いに――いや、やめよう。イマドキの若いものは、などと愚痴を言っても始まらない。    ……何だね? この期に及んでまだ私に何の日か告げる度胸があるというのかね?  面白い、では最前列の君。そうそう、ギターだかベースだか知らないが、何か楽器を持っているそこの君。  明日、6月6日は何の日かね。 「楽器の日っすね。6歳の6月6日から楽器始めると上達するって言われてるんすよ。自分もその日からギターやってて、毎年6月6日はロックの日っすね」  そうだ、昔から芸事を始めるのは6歳の6月6日から――ってそうじゃない!  いや、惜しいな、微妙にカスッたがそうじゃない。  諸君、吾輩は少なからず失望している。  秘密結社『黒山羊倶楽部』の構成員ともあろう諸君が、明日という大事な日をこれほど軽視しているとは、考えてもいなかった。  思い出すのだ諸君。  さぁ、2016年の6月6日、我々にとっても大きな出来事があっただろう。  ほう? そこの君、そうだ、そこのドジャース帽子を被った君だ。  さぁ志を忘れた同胞たちに知らしめるのだ。2016年6月6日は何があった? 吾輩をはじめ、黒山羊倶楽部にとっても大きな出来事があっただろう。 「はい! 忘れもしません、当時日ハムに在籍していた大谷選手が、日本人最速となる時速163キロの剛速球を――」  次。そこの体格の良い君だ。 「総統、この場で黙祷を捧げてください。偉大な総合格闘家、キンボ・スライスが天に召された日です」  ……あー……諸君?  もっとこう、ほら、ね? 何というかその……あるだろう?  ほら、カレンダーを見てみるのだ。  見たな? ちゃんと……いや、そこのね? 水無月とか、Juneという表記はヒントじゃなくてだな?  数字だ。数字を見たまえよ。6がいくつ並んでいる? ……そう、3つ並んでいるな?  そうだ諸君、明日は10年に1度の、6、6、6の日だ。  666。さぁ、この数字を見てなにか思い出さないかね?    ……そこでポカンとしない。顔を見合わせない。思い出せ同志達。  はい、そこ。  そこのスマホで調べたであろう君。もうこの際、カンニングは大目に見よう。6が3つ並んで666。さぁこの数字は何だ? ハイそこの君。  そう、君だ。そこのアロハ着てる君。 「えっと、獣ぬ数字……ですか?」  そう! それ!  獣の数字! やっと出た!  あぁ……本当に出てこないかと吾輩心の底から心配したぞ……。 「獣ぬ数字だから、あれさ。明日はみんなでひーじゃー食べるさー。ヤギ倶楽部は、毎年6月6日に、みんなでひーじゃー汁食べる組合だって聞いたよ?」  どこの誰だそんなデマを流したのは。  あのね、組合じゃないの、秘密結社。わかる?  あと黒山羊だから。  黒いの。黒い、ヤギ。わかる?  あと、ひーじゃーはだいぶクセ強いから。吾輩食べられなかったから。  ……いや失敬。  諸君!  思い出せ! 諸君も、吾輩も、秘密結社『黒山羊倶楽部』が何をするべきかを! 「うちなーぬ食文化を広める会さー」  そこのアロハ、黙ってなさい。三線を出さない。  ギタリストも負けじと楽器を出すな。2人とも、その物騒な楽器をしまえ。 「みんなでKsデンキスタジアムに行くんですよね!? 青い旋風を巻き起こしに! 今度こそ、1シーズンだけでJ2に戻るなんて事は避けないといけないんです! さぁみんないっしょに応援しましょう! ゴーゴー! Vファーレン!」  誰がブラジル体操を止めていいと言った。  妙に青いシャツ着てると思ったら、それはアレか、Vファーレンのユニフォームか。はるばる長崎からご苦労なことだな。  それはそうとして! 諸君! 思い出せ!    我々黒山羊倶楽部の組織の目的はただひとつ!  来たるべき『審判の日』に、我らの主たる地獄の大魔王、サタンに従い永遠の命を得ることだ!  666、獣の数字はアンチキリストの象徴、その数字が揃う明日こそが、最後の審判の日!  だからこそ! だーかーらーこーそー! こうして吾輩は諸君に招集をかけたのだ!  我らが主、大魔王サタンへの忠誠を誓うため……ってなんだこの臭いは……?  コラぁそこのアロハ! 大勢が集まる場所でひーじゃー汁を出すんじゃない! っていうかどこから出したそのスープは! 「うちなーんちゅなら、みーんな魔法瓶に入れてるさ」  絶対嘘だろ! しまえ! っていうか飲み干してしまえ!  ……しょっ……諸君! 吾輩は! 大いに! 失望している!  何のために吾輩がこうして! 記念すべき! 666の日を目前に集会を催したと思っている!  良いか! 最後の審判はもう目前に迫っている! 神などという偶像を信じる愚かな民衆と違い! 吾輩も! 諸君も! 大いなるサタンの手に護られて―― 「そもそも最後の審判って何度もあったら最後じゃないよね」 「前の前って何かあったっけ?」 「何かあったかなぁ? 私20年前とかまだ生まれてないし」  お、落ち着きたまえ同志たち!  20年前はほら、ライブドアショックで日本の経済が大混乱に陥っただろう!  アレこそはサタンの御業! あの未曾有の経済的大混乱を思い出すのだ! 「私は……あのショックで莫大な借金を……」  え、あ……え? そうだったの? 「サタンさまを信じていたのに……信じていたのに! どうせ私のお金とカラダが目当てだったのよ!」    いや、ちょっとほら、落ち着いて。  そのー、ほら、カラダはともかくとしてね? お金はそう、お布施的な? ね? 「未だに私はあの時の借金を返し続けてるわ……サタン様が何よ! 私の心とカラダとお金を弄んで!」  いや、言い方……って諸君? あの、吾輩の話はまだ半分も終わっ……あの、席に戻ってー? 戻ってぇー?  ……いや、みんな吾輩の話の途中で帰るとか、ヒドくない? 「総統? ひーじゃー食べるねー?」  ……君、まだいたのね?  せっかくだし、もらおうかな……。  総統、辞めようかなぁ……。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
カクヨム
カクヨム2026/06/05
  • 現在の作品666