あらすじ
三年間、指輪のない左手を隠して笑い続けた。
王太子の仮の婚約者。
それがリーゼルに与えられた役目だった。
領地を守る代償として差し出された、期限つきの席。
正式な相手が現れた日、彼女は自ら身を引く。
王太子はご苦労だったね、とだけ言った。
翌週から社交界の招待状は届かなくなる。
三年分の品々は返却品目録に変わった。
手袋を外しても、もう誰も左手を見ない。
名前ではなく肩書きを見ていた人たちが、静かに離れていく。
けれど一つだけ、気づけなかったことがある。
三年間、背後に立ち続けた寡黙な近衛騎士。
彼は護衛任務を自ら志願していた。
そして辞退の書状を、書いたのに出さなかった。
役目が終わればそばにいる理由を失う。
それを知りながら、彼は降りなかった。
あの沈黙が何を隠していたのか。
その答えを聞く前に、リーゼルは王都を発とうとしている。