あらすじ
――おい、嘘だろ……?
おれは驚いた。いや、戦慄した。
朝の通勤電車。いつも立たされるばかりだが、今朝は珍しく席に座れ、「ついてるな」と、おれは頬を緩めた。吊革にぶら下がる人々をぼんやりと眺めながらシートに深く腰を沈め、甘美な優越感に浸っていた。
しかし、駅を一つ通過して少し経った頃だった。
隣に座っていた会社員風の男が、なぜかスマートフォンの画面をこちらに向けてきたのだ。
膝の上にスマホを置き、ほんの少しだけ傾け、いかにも『たまたま見えてしまう』ような角度だが、手の動きが怪しい。微妙に角度を調整し続けており、こちらの視界に入れようとしているのは明らかだった。
それだけならまだいい。問題はその画面に表示されているのが、どうも『催眠アプリ』のようなのだ。
催眠アプリとは画面を見せるだけで相手を催眠状態に陥らせ、意のままに操ることができるものだ。……いや、もちろんそんなものはフィクションの中の代物にすぎず、現実には存在しない。あるとしても、せいぜい催眠療法――リラックス効果を謳うアプリ程度のものだろう。
おれは最近ちょうど催眠アプリで女の子を操り、あれやこれをする漫画を読んだばかりだから、すぐにピンときたのだ。