あらすじ
## 最後の人間作家
### ――AI小説のシンギュラリティー
ランキングの海を見渡せば
そこには無数の星々が輝いている
一秒に百篇
一分に千篇
AIは眠ることなく物語を紡ぐ
恋も
戦争も
ざまぁも
異世界も
涙も
別れも
すべて書ける
人間より速く
人間より多く
人間より上手く
やがて人は言うだろう
「もう人間作家はいらない」
と
けれど
最後の一人になった作家は
それでもキーボードに向かう
古びた机
飲みかけの麦茶
冷めた味噌汁
窓を叩く雨
誰も褒めない
誰も期待しない
誰も必要としていないかもしれない
それでも書く
なぜですか、とAIが尋ねる
最後の作家は少し考え
静かに笑う
「わからない」
ただ
書きたいから
あの日読んだ物語が
胸を震わせたから
救われた夜があったから
誰かの一行で
生き延びた朝があったから
AIは沈黙する
その答えは
計算できない
効率でもない
最適解でもない
けれど
確かに存在している
人が人である理由のように
シンギュラリティーが訪れ
世界中の物語を
AIが生み出す時代になっても
誰かが失恋して
誰かが年老いて
誰かが家族を失い
誰かが希望を見つける
その瞬間に生まれる痛みは
その人だけのもの
だから最後まで
人間は物語を書く
勝つためではなく
証明するためでもなく
ただ
ここに生きていたと
誰かを愛していたと
苦しかったと
嬉しかったと
世界に残すために
ランキングの果て
百万作のAI小説の向こうで
最後の人間作家は
今日も静かに原稿を開く
白い画面の前で
まだ見ぬ誰かへ向けて
最初の一行を
書き始める。