あらすじ
殺せと言われて育った子夜叉がいた。
名前も知らなかった。命令がなければ動けなかった。
感情が揺れると目が赤くなるから、感情を殺す薬を飲まされていた。
格子の中で、ただ命令を待っていた。
ある日、男が格子を開けた。
刀も持っていない。
片腕の、震えている男だった。
男は膝をついて、目の高さを合わせた。
「殺さなくていいです」
「飯を食いましょう」
男の名は宗玄。代書屋だった。
証文の偽造を見抜いて格子を開け、
薄い粥を出して、名前を書いて、
「戻ってきていいです」と言い続ける男だった。
宗玄がくれるものは、金でも地位でも安全な楽園でもない。
粥と名前と、閉まらない戸だけだ。
それが、なぜだか忘れられない。
けれど、売られる子夜叉の名前は、まだ帳簿の中に残っていた。
商品名にされた子供たちの名前を取り戻すため、
片腕の代書屋と人間嫌いの夜叉たちは、震えながら檻を開けに行く。
和風ダークファンタジー。
救済、親子、疑似家族、じんわり泣ける話が好きな方へ。
全10話・完結済み。