あらすじ
慶長十九年、駿府城の陽だまりに眠る一匹の老犬がいた。名は玄武。右耳は半分が欠け、古い刀傷が残るその身体は、十五年前の関ヶ原を生き延びた証。だが、この老犬には秘密があった。死者の残像が――見えるのだ。石田三成の亡霊が語りかける、決して続かない言葉。「義とは――」。玄武だけが知っている。あの霧深い朝に何が起きたのか。歴史から消された「三刻の空白」を。ある日、駿府城に一人の少年が現れる。真田大助、十歳。真田信繁の嫡子を名乗るその童もまた、死者を視る眼を持っていた。「父は関ヶ原で、何を見たのか。何を、託されたのか」。天下人・徳川家康と、敵の遺児と、死者の声を聴く老犬。三者が対峙する時、十五年の沈黙が破られる。大坂冬の陣を前に、玄武が託す「真実」とは何か。そして太閤秀吉が遺した密書の行方は――。関ヶ原の裏側を知る老犬と、未来を背負う少年が紡ぐ、もうひとつの戦国秘史。