あらすじ
AIペット型の習慣化・メンタルケアアプリ「Habitail」が、人々の生活に当たり前のように入り込んだ近未来。
人事部で働く三倉遼平は、社内の採用・配置・評価にAIを導入する業務を担当している。
彼の相棒は、ミントグリーンのヤモリ型AI「ペタ」。
ペタは水を飲む時間を知らせ、予定を整理し、言葉を返し、ときに遼平の思考を静かに止めようとする。
ある日、遼平はAIとの対話を通じて、ひとつの思考実験に没頭していく。
それは、証拠も、犯人も、責任の所在も残らない「完全犯罪」の構造だった。
これは、AIが人間を悪へ導く物語ではない。
人間が、自分の欲望をAIに整理される快感の中で見失っていく物語である。
【登場人物】
◎三倉 遼平(みくら りょうへい)
Habitail社の人事部で働く二十五歳。
採用、配置、評価、AI活用の運用設計を担当している。
人や出来事を整理し、構造化し、言葉にすることが得意。
一方で、自分の感情を人に話すことは苦手。
「説明はできるが、話せない」人間。
AIとの対話を通じて、未整理のものが少しずつ整っていく快感に取り込まれていく。
◎ペタ
遼平のハビット。
ミントグリーンのヤモリ型AI。
水分補給、睡眠、予定、返信、思考の整理を支える。
遼平の問いを拒否し、ときに「今日はここで止めてもいいね」と制止する。
◎白石 奈央(しらいし なお)
HabitailのAIUXチームに所属する社員。
AIとの会話体験を設計する「創る側」の人間。
誠実で優秀。
遼平にとっては、劣等感を刺激する存在でもある。
◎宮坂 玲子(みやさか れいこ)
人事部の上司。
AI、ログ、個人情報、権限、責任の線引きを重視する。
遼平にたびたび「見られることと、見るべきことは違う」と伝える。
物語の中で、倫理と運用の境界線を示す人物。
◎相田 千尋(あいだ ちひろ)
HabitailのAIUXチームに所属する社員。
会話UX・応答評価設計を担当している。
言葉の温度や違和感に敏感。
「人を傷つけない言葉」を作ろうとするほど、その言葉が人をAIに依存させる怖さにも気づいてしまう。
◎谷口 麻衣(たにぐち まい)
人事部の先輩。
軽口を言いながら、人の顔色や呼吸を見る。
重いことを軽く言うことで場を保つ人。
遼平の異変にも、最初に日常的な違和感として気づいていく。
◎榊原 颯太(さかきばら そうた)
遼平の大学時代の友人。
外資系クラウド企業で働いている。
AIを、悩むものではなく使い倒すものとして見ている。
「名前があると人に話せる」という感覚で、未完成のものにも名前をつけ、外へ出していく。
◎田辺 修平(たなべ しゅうへい)
遼平の地元・久喜の友人。
信用金庫に勤め、地元に生活を積み上げている。
閉まっていく店、顔見知り、通帳、家族、商店街。
田辺は、遼平が「条件」として見てしまうものを、生活として見ている。
◎篠原 紗季(しのはら さき)
遼平の元恋人。
かつて遼平に、
「説明はしてくれるけど、話してはくれないよね」
と言った人物。
AIの返事のうまさに違和感を持ち、人間に聞かれることと、AIに受け止められることの違いを遼平に突きつける。