あらすじ
扇の裏側だけが、彼女の居場所だった。
ヴァイスフェルト公爵家の外交はすべてセレーナが回している。
条約を設計し、各国と交渉し、合意を積み上げる日々。
けれど署名欄に彼女の名前が並んだことはない。
夫の口癖はいつも同じだった。
黙って笑っていろ。
功績は夫のものになり、セレーナには扇の裏の沈黙だけが残る。
三年間、それを受け入れてきた。
同盟の会議から締め出された日、怒りは来なかった。
もっと静かな何かが、音もなく閉じた。
宝石も衣装も置いて、屋敷を出る。
持ち出したのは交渉記録の手帳一冊。
化粧台には、夫に贈られた扇だけが残された。
隣国から届いた一通の書簡にこう書かれていた。
あなたの言葉を聞かせてほしい。
三年間、誰にも言ってもらえなかった一言だった。
妻が抜けた公爵家で、何が起き始めるのか。
扇を手放した女は、どんな顔で笑うのか。