あらすじ
「こちらです……総理」
「ああ……」
おれは車から降り、目の前にそびえ立つ灰色の建物を見上げた。コンクリート打ちっぱなしの外壁は継ぎ目が一つも見当たらず、窓もない。今日の曇天も相まって、まるで巨大な墓標のように見えた。
側近が前に進み出て、重そうな金属扉を押し開けた。蝶番が低く軋み、鈍い音が響いた。
側近は一歩脇へ退き、手で中を示した。おれは軽く頷き、足を踏み入れた。
建物の内部は外よりもひんやりとしていた。やや湿気があり、鼻をすすると、かすかにカビにも薬品にも似た妙な匂いが鼻腔に入り込んでくる。おれは小さく息を吐き、呼吸を浅くした。
廊下は長く、天井も高い。照明は等間隔に埋め込まれた足元灯だけで、全体的に薄暗い。歩くたびに乾いた靴音が広がり、壁や天井にぶつかって遅れて返ってくる。その反響音が耳に心地よく、おれは意識して歩き続けた。
「――総理。総理?」
「ん、ああ。どうした?」