あらすじ
三年前から、夜になると仮面の男が窓に来る。
名前を聞いても「言えない」と言う。素性を聞いても「通りすがりだ」と言う。それでも来る。他愛ない話をして、行き詰まった夜は夜明けまで隣にいて、また消える。
慣れてしまった。この時間だけが、息のできる場所だった。
一方、昼間の王宮では若き宰相グスタフが、私の部署の権限縮小を提言していた。理由も説明もなく、廊下ですれ違いざまに一言だけ告げて、そのまま歩き去る冷たい男。会ったこともないのに、嫌いになった。
そしてある夜の合同会議で——宰相の声と、仮面の男の声が、重なった。
三年間分の夜が、一瞬で別の形になった。
昼間、私を冷たく追い詰めていた男が。
部署を標的にしていた男が。
何も映していない目で通り過ぎていた男が。
毎晩、私の窓に来ていた。
「夜に来ていたのは——何のためですか」
「会いたかった。それだけだ」
三年間の昼と夜が繋がったとき、残酷さにも、優しさにも、全部に理由があったと知った。
「昼間の顔で、言えますか。夜と同じことを」
仮面も、夜も、もういらない。
昼間の光の中で聞く「会いたかった」は、三年分の夜より、ずっと——。